藤子・F・不二雄『T・Pぼん』スペシャル版

全体的な話

 基本的には主人公の並平 凡 (以下、「ぼん」とします)が色々な時代へタイムパトロールの任務で向かい、その時代を体験する話の連続。物語全体を貫く大きな物語みたいなのは存在していなくて、だから今回スペシャル版で初収録になった話というのも、多分単行本にする際のページ数の都合のせいだったんだろうな、と個人的に想像している。
 一応各話ごとにオチは付いていて、主人公の身近な範囲のスケールに落ち着く形をとる。この辺の、一気に話のスケールが下がる辺りが、F先生らしいのかな、と思ったりもする。
 TPの道具の格好よさとかワクワク感は『ドラえもん』には劣るけど、まあしょうがないかな。
 任務を離れてリゾートに行くみたいな話が何回かあるけれど、その部分の描写はF先生らしくとても魅力的で好印象でした。

リームについて

 この原作単行本を読むずっと以前にアニメの『T・Pぼん』を見ていて*1、その作品のリームが持つ少し年上のお姉さん的イメージが強すぎて、原作だとその辺りの印象が薄くなっていて、ちょっと拍子抜けしてしまった。
 でも、後述のユミ子と同様に、口うるさくぼんに対応する、という部分はこの作品のヒロインに共通している。リームの方を個人的に好きなのは、リームが他の時代 (といっても2016年……ってあと7年後か!) に属している人物だというミステリアスさが原因なのかもしれない。
 作品の半ばで唐突にヒロイン交代があります。その辺りのエピソードで(リームが今後登場しなくなる、ということとは直接関係は無いのですが)、それまでとは桁違いのスケールの危機をぼんとリームの2人は一緒に乗り越えたます。その直後に唐突に「ぼんは正隊員にななるのでひとり立ち」という理由でリームとの離別があり、その後リームが登場しなくなるせいで、俺の中で美しい思い出として乱されないまま存在するような状態になっているのかもしれません。

ユミ子について。

 作品の後半で出てくるぼんの相方ヒロイン。F先生の他の短編とかに出てくる女の子に居そう。F先生ってこういう女の子好きなんだろうなあ。
 基本的に口やかましい世話焼きっぽい性格。物覚えは良いので、終盤になってくると、ぼんよりも上手くTPの任務をこなしたりもします。その辺は若干、ぼんにとっては(ひいては読者にとっても?)気に食わないような印象を与えたりするかもしれないです。
 リームがTPとしてある程度長く経験を積んでいるので割り切っている(ことが多い。時々割り切れていなかったりする)のに対し、ユミ子は割り切れていないことが多く、その辺のぼんに近い感じと言うか、等身大っぽさと言うかは、見ていて好印象ではあります。
 読み返してみると、確かにリームとは異なるけど魅力的だと感じました。俺個人としてはリームの方が好みだけれど、ユミ子のほうが好みだと言う人もいるんだろうなあ。

*1:今回原作を読んで分かったのだが、アニメの『T・Pぼん』は、原作からいくつかのガジェットと言うか題材となる時代・場所・事件というかを持ってきて、2時間 (?) くらいでちゃんといくつかのヤマ場や泣かせどころとかを作るようにシナリオを大幅に改変しているものだ。