オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』

総評

 今、SFを色々読んでみようと考えているのは、ちょっと前に読んだウィリアム・ギブスンニューロマンサー』のせいだったりします。そんなサイバーパンクを摂取したくてしょうがないような精神状態においても面白く読めるような短編も含んだ短編集。この辺りのガジェットと言うか作風と言うか、そういったものの多様さが、すごく魅力的。きっと誰に読ませても気に入る短編がひとつくらいはあるんじゃないかしら。
 以下、各作品へのコメントです。

「エンダーのゲーム」

 同名の長編のもとになった短編。長編の中で俺が好きだった最後辺りの切ない部分(そして『死者の代弁者』のエンダー像へと続いていく部分)は全然無くて、エンダーの『勝利』みたいな部分のみに言及して終わる感じ。この辺は好き嫌いが分かれそうだけど、俺は嫌いじゃないですよ?

「王の食肉」

 ファンタジー的なガジェットに彩られた短編。でも実態はSF。性善説性悪説(という言い方が正しいのかどうかは分からないけれど……)のどちらをとっているのかはっきりしないという点ではちょっと異色っぽい側面もあるのかもしれない。

「呼吸の問題」

 ほんの少しの日常の違和感というか不思議なことというか、そんなものが徐々にスケールアップして行き……という話。目の付け所と訳の見事さに舌を巻いた。

「時蓋(タイムリッド)をとざせ」

 サイバーパンク的なガジェットの色濃い作品。個人的には1、2を争うくらいに好きな作品かも。もの凄く色んな方向にインパクトのありそうなことを (計算しつくされた状況であるとはいえ) 刹那的な好奇心だけで手を出してしまう、という辺りの危うさがとても魅力的。

「憂鬱な遺伝子(ブルー・ジーンズ)を身につけて」

 色々な要素を詰め込んだ冒険モノっていう括りでいいのかしら。裏をかいている様な部分 (対象の星が、かつて人類が捨てた地球であるとか) はあるんだけれど。面白い。

「四階共同便所の怨霊」

 ホラー的なガジェットが強烈な作品。徐々に狂気に蝕まれていく主人公とその周囲の人 (具体的には妻) が魅力的。テンションを最高まで上げきってから、そのまま唐突に終わる構成も素晴らしい。

「死すべき神々」

 ファーストコンタクトもの、として見ることもできる話。異星からの生命体と人類との考え方の違いを楽しめれば良いんじゃないかな。

「解放の時」

 不条理譚、というのでいいのかな? 出てくるガジェットが棺桶という死の臭いを強く感じさせるものなので、ホラーっぽい印象も少しあったり。不思議な話だよ。

「猿たちはすべてが冗談なんだと思いこんでいた」

 序盤に少し政治的な臭い (と言うのかな? 支配者側の人間の養子となることで、滅亡の運命を辿る国から脱出したネイティブ少女の描写) のする部分があるのがちょっと気になったが、読み返してみるとしっくり来た。ちょっと楽観的すぎるかな、と思うが、まあ面白いよ。

「磁器のサラマンダー」

 ファンタジー色の強い作品。少女が傷付くことを経験して大人になっていく話。サラマンダー、つまり蜥蜴という若干グロテスクさのあるものと少女の対比が、最後の成長後の少女の想いを際立たせていて素晴らしい。

無伴奏ソナタ

 表題作。音楽に関するアクセス権限が厳しく管理された社会を描くディストピア小説、という評価でいいかしら。言うことは特に無いくらいに面白いよ。