『コミックギア』を読んでみたよ。

コミックギア 001 (まんがタイムKRコミックス ギアシリーズ)

コミックギア 001 (まんがタイムKRコミックス ギアシリーズ)

総評

 ページ数が多い。多分この1/2〜2/3くらいの厚みで充分な内容じゃないかしら。大半のネームが間延びしてダレた印象になってしまうのも、そのせいな気がする。背表紙を平たく作って「漫画誌の作り方 / 変えてみました。」という文章を2行かけて書きたいので厚みが必要です、と言うのならば「Change! Yes, I Can!!」とか書けば1行で済む上にスベリ芸としての要素を盛り込めるかもしれませんよ?
 以下、各作品について。

ヒロユキ「スーパー俺様ラブストーリー」

 あまり言うことは無いかなあ。実はこの人の漫画を読むのは初めて。個人的にはバニーさんとキャッキャウフフしていればいいのに、と思う。

じゅら「マシンガンソウル」

 何か消化不良。「不器用すぎて銃が使えないのに傭兵!? 己が肉体のみで生き抜け!!」というアオリ文句があるならば、筋肉のアップのコマを入れるとかすべき。あとミリタリ関係の薀蓄を入れるとかしてほしい。ギャップが魅力だと言うならばギャップをより際立たせるために舞台設定の説得力をもっと持たせてほしい。あと、ネームにスピード感と緊迫感が無さ過ぎ。その辺があまりに疎かなので、正直言って「『不器用な傭兵って面白くね? キミリアル系の絵柄だからそういうの描けないかな?』と言われたので、とりあえずガジェットはそれらしく描いてみました」とかなんじゃないかと思ってしまうわー。邪推しすぎ?
 女教官はいいと思います。
 巻末コメントの「声優と結婚できるまで死ぬ気で頑張ります」がネタなのかマジなのかわからなくてちょっとウケる。

若林稔弥「大魔王ザキ」

 45ページは要らない。4コマにしてもいいんじゃないかな。

ユーゴ「ゴーストラッシュ」

 一応及第点。いー感じにゴチャ混ぜの伝奇モノ。式神の娘の衣装とかを見ていると、「この作者は見所があるんじゃないか?」と思える。もう少し画面にケレン味とかが加わると大化けするんじゃないかなあ? 個人的なバイアスがかかっているけど、期待はしていいかも。

友吉「GoodGame」

 ちょっとタルいけど、まあ及第点。
 縞パンモロしちゃうSっ気の強そうな娘が個人的な見所。

とりねこ。「ヒヨコと道化と不思議の町と」

 神降臨。何と言うか粗はあるかもしれないし、まだまだこなれてもいないんだけれど、絵柄の雰囲気と舞台設定とガジェットとがよくマッチしている上に、繰り返しの使い方によるクライマックス前の盛り上げとかがちゃんとしていて期待大。命名センスもいいものを持っていると思います。今から画面の何処かに伏線が無いか確認したくなってしまう。マジでイチオシです。

佐藤ユーキ「デスハート」

 逆の意味で続きが気になる。
 時限爆弾みたいなガジェットを使って、イベントの消化になりがちなストーリーに、中長期的なハリを与えると言うのは常套手段ですが、その時限爆弾の残り秒数がシビアすぎる。一般的に思いつきそうな解除手段を1話目から持ってきて大失敗とか。ええと、チェスで相手が次の一手チェックメイトしてくるのを防げない状況ってお好きですか? 何考えてんだコレ。普通に考えると不幸な展開しか予測できないんですが……。2話目で女性看護士型アンドロイドと同居を始めて一気に方向転換とかですか?
 コレを書きながら、三角関係という話の進め方はアリだと気が付いたけれど、それもちょっとねえ……同情狙いなの? っていう突っ込みに対応できるほどのキャラの厚みとかを表現できるのかと言うのは、現段階でとても不安です。本当に何を考えているんだコレは。

櫻井マコト「アシュラ」

 女の子だらけの画面なので好きですけれど、38ページ使うんならもうちょっと工夫してほしい。副官出すとか。コレも4コマで大丈夫な内容かなあ。

九品そういん「プリンセスサマナー」

 まあまあ。ゲームを如何に面白く見せられるかがカギ……かなあ? 作者はM;tGプレーヤなのかしらん? 今後ゲームデザインのセンスが必要かどうかは微妙なトコロ。ゲームデザインを真面目にやって、ゲーム自体の魅力を主力にするか、それともただゲームを楽しんでる女の子の百合っぽい描写を主力にするかは、まだハッキリしない。タルいのは事実だし、4コマでやったほうが良さそうなネタなのは事実だが。

組織論っぽいことをぶつ

 最後に色々。
 ってか、この本の目的がよーわからんわー。「連載未経験の人にまがりなりにも連載を経験させる」っていうのであれば、まだ二百歩譲って認めてやらなくも無いけど、現実には多分にそれ以外の要素が含まれちゃっているじゃない? 漫画作成未経験者への教育とか。
 技術系のお仕事だと(他のお仕事でもそうだと思うけど)、人手を増やしたからって生産性がそれに対応してすぐ向上するかって言うと、そんなことはなくて、増やした人手が使いモノにならない期間ってのが発生してしまって、そこがプロジェクト管理の内で人員管理として重視されるトコロなわけです。んで、一刻も早く使いモノにするべく教育を施す必要があるわけですが、OJTの場合だと、経験者とルーキーがマンツーマンか2対1くらいが良いと個人的に思っていて、有効に機能する限界は経験者1対ルーキー2、それ以上になるとコストばかりかかってOJTよりも、教育のカリキュラムをきちっと組んでルーキーは教育に専念させた方が効率が良いんじゃないかしら?
 現実にはヒロユキ先生がルーキーを多数抱えてOJTという形になっていくのはわりと明白で、その体制を支えているのがヒロユキ先生個人の資質 / 性格 だけと言うのはリスキーすぎる。後進の教育に関係した仕事に向ける情熱ってのには、一定の評価を与えますけれど、もうちょっとシステマティックに環境を整備した状態でやらないと、グダグダになるのは目に見えてますぜ? 経験者の数が足りない状態で自転車操業みたいなプロジェクトを回していて、そんなんだから「お山の大将の同人誌」みたく見えるんだよ。
 ルーキーの経験不足に対応する別のやり方として、枠組みをガッチガチに固めてしまって、仕事への敷居の低さをシステマティックに保証する、と言うやり方がある。このやり方は技術系の仕事だと開発環境とかライブラリとかフレームワークの統一と周知徹底という形で具現化しているけれども、そのやり方はコミックギアには適応しにくいと言うか、多分適応しているんだけれど、枠組みのクセが強くて結果的に一部の作品の題材とマッチしなくて、作品の魅力を損なう状態になってしまっているのは残念なトコロ。
 経験者が足りないことに絡めて。プロジェクトを遂行する際に、メンバー間でのパワーバランスって重要だと個人的に思っていて、プロジェクトが間違った方向へ行きそうになった場合のフィードバック / ブレーキ が存在するかどうか考える際の材料の一つになると思っている。建設的な批判をしてくる経験者に相当する人材がコミックギアにはいないんじゃないの? そんなんだからお山以下省略。
 大体こんな感じで、書きたいことは書いたかな。