高瀬彼方『カラミティナイト -オルタナティブ-』1巻

 以前、ハルキ文庫のヌーヴェルSFシリーズから出ていたシリーズの再刊。と言うかリメイク。基本的な話の流れは前と同じで(但しハルキ文庫で1冊分だった話を、今回は2冊に分けています)あるのですが、前は影の薄かった男主人公(?)が女性キャラに変更になっています。おかげで、他の女子キャラとの絡みみたいな部分が深めに描かれていて好印象です(いや、ただ単に俺が忘れているだけかもしれないですが……)。
 1巻では、基本的に事件に巻き込まれる(という言い方はちょっと違うんだけど)キャラクタ2人の内、読書好きの作家志望少女・沢村智美の方が主に描かれています。何度読んでも、この智美に対する事件の流れ(「智美の日常とか」 -> 「智美が傷付く事件」 -> 「智美の想いの『再生』みたいなの」)は秀逸だなあ。流石に初読した時ほどのインパクトと言うかドキドキ感と言うか、そういったものは無いのですが、それでもやはり、智美の事件のクライマックス(この本の中盤辺り)では、それを引き起こした敵役と一緒になってつい興奮してしまいそうになる……すいません、敵役と一緒に大いに興奮してしまいました。こういう感想を抱くのはスレているのでしょうか。
 でも、この段階で十二分に智美が傷付くことが、後々色々なところで効いてくると思うのです。決して事件によって智美が傷付くことを喜んでいる訳ではありません。智美が敵役に目を付けられないまま暮らしていければ、それは幸せなので、それを望む気持ちはあります。智美の傷を打ち明けられた親友の立場に立って、何か力になってあげたいと思う時もあります。
 でも、やっぱり知美が傷付けられているその刹那には、俺は敵役側の立場に立ってしまいがちになります。敵役は、その偏執狂的な智美への想いによって、智美のことをある意味で誰よりも理解し、そして最も効果的な方法で智美を傷つけるのです。それは、表に出すか秘めるかの区別はあるかもしれませんが、多かれ少なかれ、この話を読んだ人間が心に抱くものではないでしょうか? だからこそ、この敵役と一緒になって興奮してしまうのではないでしょうか?
 この辺のガジェットの使い方と言うか、読者へのアプローチの仕方と言うか、その辺りはやっぱり秀逸だなあ。予定調和と言われればそれまでですが。


 2巻の感想へのリンク。
 http://d.hatena.ne.jp/sakakigura/20090326#1238945653