中村九郎『アリフレロ キス・神話・Good by』

 知人が読んでベタ褒めしていたので読んでみた。知人の評価を見ていると、世間には中村九郎について、「日本語がおかしい」と言う人と「日本語が素晴らしい」と言う人がいるみたいだけれど(当然知人は後者)、俺自身は多少クセがあるな、と感じた程度。通読すれば意味は大体分かるし(翻訳SFとかくらいの読みにくさ……かなあ)。
 んで内容について。ガジェットの選び方がもの凄く俺好み。なかなか言語化しづらいけど、こういった不思議な話を語る上で、既存の聖書とかにバックボーンのガジェットを求めるのではなく、一見神話とかとは無縁そうなものから見立て(っていう日本語でいいのかな?)のベースとなるガジェットを選び出して、話を構築していくことで、俺の脳内では「俺も良く知っているものをそう使ったかあ!」ともの凄く興奮する、と言うことかな(類似例としては、民話とか童話とかを組み合わせる、とか。もっと突き詰めていくと造語のセンス、つまり良く馴染んでいる言葉を組み合わせて、新しい語感を受け手に与える技術、に行き着くのかな)。しかもそこでビリヤードを持ってきて話の一貫性を作り出すとは。更に言うなら、この世界の神話の神の名前は無機的な記号であることで、見立てられた「ビリヤード」と言うものの特別性を消去し、神話に満ちた世界というものを補強するのにも成功していると思う。
 キャラが奇人ばっかりなのは、別に俺にとってはネックじゃない。そんな経験は今まで沢山あるし。後は悲恋モノだね美しいね、ってくらいかなあ。
 まとめると、クセは強いけれど、翻訳SFとかでそのクセに類似するものに慣れている人には平気な代物。