タカハシマコ『(ニコ)』完全版

 (ニコ)と出会ってしまった人たちを描いた連作短編。基本的に(ニコ)は狂言回し的な役回りなので、(ニコ)と出会った人間たちが抱える苦悩とかその辺がお話のキモ。後は、まあタカハシマコなので、その苦悩が(ニコ)のせいで増幅してしまったり。
 (ニコ)は、犯罪者予備軍みたいな人と交渉してネバーランド的なところ(作中では『船』と呼ばれる)に連れて行って隔離するのがお仕事のロボットです。だから、SFという分類をするかと聞かれると、冗談として「SFですよ」ということは確実ですが、本気かどうかはちょっと微妙。『エマオイア』の時も判断に苦しんだ記憶があります。タカハシマコはこの辺は( (ニコ)の設定とか、『エマオイア』のウィルス絡みのくだりとか)は、本当に単なるガジェットとしてしか考えていない印象があるので、SFではないと判断を下してもいいような気もするんですが、そうするとカードの作品はどうなるの? みたいな批判が自分の中で生まれるわけです。
 大分話が逸れますが、『少女セクト』はSF的な香りの強い作品だと思っています(でもSFではない)。ガジェットの携帯電話的なデバイスの設定とかが。実現されていることはそこまで目新しくない(グリッド・コンピューティング的なことだったと記憶している)のですが、それが携帯電話型デバイスで課金システムにも絡んだ形で実現しているという辺りが個人的には舌を巻いた。話には直接絡まないのだけれど、夢があっていいやね。カードの『無伴奏ソナタ』は読書中なんだけれど、ガジェットが話の主要な部分に絡んでいる上でのキャラクタの心情描写の細やかさなので、まあ個人的に不満は無い。
 対して、タカハシマコの方は何ていうか、本当にガジェットでしかない、と言うか。正直な話、(ニコ)は別にロボットじゃなくていい、悪魔とかでも良いじゃない。ロボットが広く人口に膾炙しているガジェットだと言うことを除いても、何と言うか説得力に欠けるし、必然性があまり無い。またあまり目新しい何かとかも感じない。作品自体の主眼とか力の入れどころとかがそこではない、のは充分に分かっているつもりなんだけど。
 でもやっぱり『乙女ケーキ』の方が個人的には面白いかなあ。